【R&D Awards 2026 受賞者インタビュー】「審査を人から解き放つ」― 独学で開発したAI審査ツール。8名がかりだった業務を1名で可能に

R&D Function Unitでは、パーソルグループおよびR&D Function Unitのバリューを体現した優れた仕事を称賛する「R&D Awards」を毎年実施しています。今年はMVP賞・VP賞・FINE賞、合わせて7つのプロジェクトが受賞しました。その中から、一部のプロジェクトをご紹介します。

スキマバイトアプリ『シェアフル』の求人審査グループは、求人内容が法令や『シェアフル』のガイドラインに合致しているかをチェックし、適切な求人を維持する重要な「守り」の役割を担っている。

しかし、『シェアフル』の事業成長とスキマバイトの需要増加に伴い、その対象件数はサービス立ち上げ当初の数百倍となり、現在では1日に数千件規模の求人にまで膨れ上がっていた。『シェアフル』の審査グループのメンバーは瀧山さんを入れて2名。その体制で毎日数千件の求人をチェックするのは限界がある。こうした状況で、瀧山さんは、これまでの審査業務で分かっていた「審査対象となる求人のうち、違反や不適切な表現を含むものは全体の2%以下」という事実に着目した。そして「98%の適切な求人の審査に人の工数を割かない」ことを掲げ、AIを活用して自らツールを開発。

自らが業務フローの主権を握り、事業成長がコスト増を招かない「持続可能な審査体制」への転換を目的として構造改革に挑んだ。

成長の裏側で限界を迎えていた、求人審査の現場

瀧山さんが取り組んだのは、審査業務における以下の課題の克服である。

  • 「人海戦術」による慢性的な工数不足からの脱却
  • 急増する求人票をさばききれる高効率な作業環境の構築

「求人増=人員増」の定石を疑い、審査のあり方を変える

― 課題の1つめは、「人海戦術からの脱却」でしたね。

瀧山: はい。
当時は全ての求人をExcelに落とし込み、委託先の方がチェック対象の可能性がある求人の中から、募集方法や表現に不適切な部分があるものを目視でピックアップし、最終的に『シェアフル』の審査グループが違反の有無を判断するという工程で作業を進めていました。まずは、この「求人数の増加と比例して、人員と委託費用を増やす」という労働集約型モデルを疑うことから始めました。そして「全件を人の目で見る」という従来のアプローチを、もう辞めようと。

そこで、これまで使っていたExcelを管理がしやすいGoogleスプレッドシートへ移行し、その上でGAS(Google Apps Script)による自動判定とAI(Gemini)による文脈解析を融合し、独自の「正常>リスクあり>真のNG」という階層型のふるいを実装。人力で行っていたNGを検知する作業を、簡単な操作をすれば自動で検知できる仕組みに変えていきました。具体的には、法令や『シェアフル』のガイドラインに即して定めたNGワードや類似データを自動で弾き、必要なデータだけを抽出して、それをさらに作業者に均等に振り分けるというものです。

当然、これまでのやり方を変えることに対して周囲の不安もありましたが、自らプロトタイプを作成して精度を証明することで、組織の常識を書き換えていきました 。

―GASの構築は経験があったのですか?

瀧山:いえ、全く(笑)。GASはよく開発チームが利用していたのは知っていましたが、一切触ったことはありませんでした。Geminiにやりたいこととゴールを伝え、何日か壁打ちをしていく中で実現することができました。

移行するにあたり、これまで使用していたExcelをGoogleのスプレッドシートに切り替えることになったので、調整に少し時間がかかりましたが、大体2~3か月くらいで移行が完了しました。

これまで1行ずつ目視していた作業が、GASとAI判定によって自動化され、確認すべきデータのみが抽出される状態に。

専門知識ゼロから、現場起点でHTMLツール自前開発

― そこからさらに、急増する求人票を効率よく確認できる作業環境を構築するために「HTMLツール」への転換を完遂されたのですね。

瀧山: そうですね。スプレッドシートによるスクリーニングで成果は出たものの、スプレッドシートだと表形式でパっと見づらいですし、さらなる操作性向上の必要性を感じていました。

しかし、シェアフル内でシステム開発などに長けているプロダクト部門に依頼してツールの開発を待っているままでは、急増する求人に現場がパンクするのは明白でした。そこで、エンジニア経験も無ければ専門知識もゼロという状態ではあったものの、Geminiを活用し、指示方法や検証手法、コーディングを独学しました。日々の審査業務と並行しながら、空いた時間でコードを書き、実装しては高速で改善を繰り返す「地道な自前開発」を行っていました。

最終的には私が整えたコードを「メモ帳から開くだけ」で、委託先のパソコンでもサクサク動くHTMLツールを、1ヶ月半くらいで作り上げました。今はスプレッドシートを利用する機会はなく、HTMLツールだけで業務がほぼ完結しています。

スプレッドシートに使用していたGASのコードを用いてHTMLツールを作成した。

― AI活用において、精度検証やルールの定義はどうされたのでしょうか?

瀧山: 法令や社内規程など「真に守るべきルール」をAIにしっかりインプットさせ、どのようなワードで検知すべきかを定義しました。ただ、それでもAIを100%信じすぎるのも危険なので、AIにコード検証を任せつつ、出力された結果の精度は自分自身の目で見てダブルチェックを行う体制にしました。AIと人の目や知見を掛け合わせることで、実用レベルの精度を担保しています。

瀧山さんいわく、AIツールを使いこなすコツは「まずは見つけられる機能を一通り使ってみること」。

一人の行動が、組織の空気を変えていく

― 今回のツール刷新による、周りからの反響はいかがでしたか。また、次なる目標はあるのでしょうか。

瀧山:ツールを作成したことで、上長もこの成果を武器に、これまで動き出せずにいたコストや運用面の見直しに向けた大きな交渉へ動いてくださいました。「自分の行動が起点となって組織が変わっている」という実感を強く得られましたね。

何より「プロダクト部門に改修してもらうのを待つしかない」という現場の受動的な空気を、自らのAI学習と即時実装によって打破できたことが良かったです。意思と実行力さえあれば、自分の手元からでも劇的な変革が可能であることを証明できたと感じています。

今後は、自分のチームだけでなく、組織内や営業部門などに対しても、今回培ったノウハウをアウトプットしていきたいと考えています。「AIを使わなきゃ」と身構えるのではなく、使い方を覚えれば業務はもっと楽になります。自分が手元で困っていること、時間がかかっている作業をツールで効率化し、そこで生まれた余裕を使って「さらにその上のチャレンジ」に向かっていく。そんな考え方を社内に広めていくことが、次なる私の目標です。

💡バリュー体現ポイント

■ふつうを疑う(OUT OF BOX)

「求人が増えれば、人を増やして対応する」という労働集約型モデルのふつうを疑った。「審査対象となる求人のうち、違反や不適切な表現を含むものは全体の2%以下」という事実に着目し、全件目視ではなく、リスクのある求人に人の判断を集中させるアプローチへ転換した。

■速さを武器に(VALUABLE SPEED)

専門知識ゼロの状態から、AI(Gemini)をパートナーとしてツール開発を独学した。日々の審査業務と並行しながら、自らコーディングと実装を行う現場起点の「高速改善サイクル」を確立した。

■それは最後の答えか(DIVE DEEP)

急増する求人に対し、サービスの信頼性を守り抜くために何ができるか真摯に向き合い続けた。人海戦術に頼り続ける体制を脱し、テクノロジーを正しく使いこなすことで、品質とスピードを両立する新たな審査体制をつくり上げた。

💡創出成果

  • 審査工数の大幅削減:最大5万件/月を超えていたチェック対象求人数を、1.4万件/月まで絞り込み。約72%の削減を実現し、審査精度を落とすことなく、従来の「8名体制」での審査から「1名体制」への集約を実現。
  • 審査ロジックの内製化:審査の初期工程を委託先の人材やツールに依存していた業務構造から脱却し、審査ロジックを自社で100%管理・改修できる体制へ移行した。
  • 運用体制のアップデート:ツール改善を起点に大幅なコスト削減にもつなげ、これまで対応が難しかった「365日の求人チェック体制」の運用アップデートを実現した。

瀧山 力/Riki Takiyama

シェアフル株式会社 プロダクト推進部 審査グループ

2019年より、スキマバイトアプリ『シェアフル』に掲載される求人の適法性や規定遵守、企業の利用可否を判断して、健全なプラットフォームを維持するための求人審査グループに所属。
プライベートでは、街の風景を楽しみながらの散歩や、ポッドキャスト・ラジオ鑑賞が趣味。